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旅、ときどきネコ

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個人旅行、一人旅大好き。デジタル一眼レフによる旅先の思い出を中心に時々ネコの写真です。09年11月から半年間はドイツ滞在記をupしていました。

青の静寂

世界遺産、ケルンの大聖堂にパリのノートルダム。フランダースの犬で有名なアントワープの大聖堂に、フィレンツェのドゥオモ。小さな教会では、ベートーベン少年がオルガニストを務めたことで知られるボンのレミギウス教会。ベルギーに住んでいた頃、近所にあったブラスカートの名前すら覚えていない教会。六歳のときから今年の五月までのX年、ヨーロッパにある教会には数え切れないほど行きました。

しかし。
その中で特に印象に残った、忘れられない場所を選ぶとしたら、マインツにある聖シュテファン教会はナンバーワン候補のひとつです。
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マインツはライン川沿いにある、ドイツ西部にある都市。フランクフルトからは電車で三十分ほどです。ケルン、デュッセルドルフと並び、ラインタント地方のカーニバル三大都市のひとつと呼ばれています。
通常、マインツで有名な教会といえば大聖堂の方です。ケルン、アーヘンと並び、ドイツ三大大聖堂のひとつと呼ばれているそうです。遠くからでもパッと眼に飛び込む、落ち着いた赤。堂々としているのにどこか可愛らしい、ウェディングケーキのようなデザイン。巨大なのに関わらず、何故か重圧感はありません。白く、直線的で硬い、厳しい印象のあるケルンの大聖堂とは対照的です。このマインツの大聖堂も見応えはありますし、周りに素敵な建物やカフェ、お店が立ち並んでいますので観光にはもってこい。
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でも、町の中心から少し離れたところにある聖シュテファン教会にも是非立ち寄ってみてください。

シュテファン教会の外観は、特筆すべきではないように思います。第二次世界大戦後に修復されたとかで、あまり古いですとか重々しい感じはしません。でも、青銅色の重々しい扉を押し開くとそこは静寂の世界。シャガールによるステンドグラス越しに差し込む光で、教会中が青一色に染まっています。
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シャガールのステンドグラスを見るのは初めてではありません。昔々、家族旅行で行ったランスの大聖堂でも見たことはあります。当時は、観光情報というとガイドブックかツーリストインフォーメーションで配布されているぺらぺらのパンフレットしかなかった時代。ステンドグラスのことは何も知らずに行ったところ、こんなところにシャガールが!と母が大感激していたことは記憶に残っています。が、八、九歳のわたしがステンドグラスを見て何を感じたかは覚えていません。大聖堂の近くにあったベーカリーで買ったキッシュロレーヌの美味しさに感激したことはしっかり脳裏に焼きついているのですが。
しかしそれ以降、シャガールという名が気になり、母が美術館でほら、シャガールよと言う度、ああステンドグラスの人だ、空飛ぶ馬だ、不思議な絵の人だ、と意識するようになりました。

今回、子どもの頃とは違いステンドグラスを見た瞬間、いえステンドグラス越しに注ぐ光を浴びた瞬間に心奪われました。
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感動した理由のひとつには、自分が年齢を重ねたことがあるように思います。よく「子どもの頃の方が感受性が豊かだから感動が大きい」といわれます。ある意味真実かもしれませんが、全面的な同意はしません。たとえば、わたしが50年後に再びドイツを訪れたとしたら。変わったものはたくさんあるでしょうが、その中で変わらないものを見たらどれだけ感慨深いことか。反対に、子どものときに食べたキッシュが今でも忘れられないのは、初めての味だったからでしょう。年齢と共に感受性は必ずしも薄れるのではなく、関心が変わってくるだけなのかもしれません。
もうひとつの理由は、教会の程よい広さです。教会の威信誇示の目的もある大聖堂は、概ね巨大。見上げると首が痛くなるほど天井が高く、窓から入る明かりは中央にある信者席にはなかなか届きません。広すぎて落ち着かず、萎縮しそうです。ですがこの教会は小さめなせいか、どことなく穏やかな雰囲気が漂っています。左右のステンドグラスから入る光は教会中に届き、入った途端に暗いものの青く優しく静かな光が身を包みます。二月のオフシーズンでしたが、シュテファン教会には観光客は次々と訪れていました。しかし、中に一歩足を入れると誰もが一瞬口を閉ざします。降り注ぐ光に身を委ねているかのようでした。

ステンドグラスの題材となった旧約聖書は、ユダヤ教・キリスト教共通の聖典です。自身がユダヤ人であり第二次世界大戦中にナチス支配下にあるフランスから逃れたシャガールが、ドイツとユダヤの橋渡しを祈りデザインしたとか。という背景情報はマインツ訪問時は知りませんでしたが、そう聞くとキリスト教徒でないわたしにも心に染み入るものがあります。

実物にはかないませんが、言葉でいくら説明するよりも写真の方がステンドグラスの美しさを語ります。どうぞ。




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by monisha | 2010-07-08 13:12 | Mainz

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